「“お弁当”で子どもの体と心を健やかに」
FCN株式会社代表 椎名伸江 さん

FCN椎名さん8

学校から帰宅したら夜遅くまで塾に通う。そんな、子ども達の姿が珍しくない時代になりました。学校栄養士をしていた椎名伸江さんは、夕食を菓子パンやファストフードなどで済ませている子どもが大勢いることを知り、子ども向けのお弁当屋さん「FCN(エフ・シー・エヌ)」を設立。塾に通う育ち盛りの子ども達に夕食のお弁当を届けています。椎名さんにお弁当に込めた思いと、食育にもつながるその活動についてお伺いしました。

 

“塾弁”を始めた理由とは?

私は2年前まで、学校栄養士として学校給食の献立作りなどに携わっていました。ある時、保護者の方々に給食を食べてもらう「給食試食会」を開催していて、こんなご意見をいただいたんです。

「子どもが塾に通っているんですが、共働きで子どもが夜、塾で食べる夕食用の手作り弁当を持たせる余裕がありません。その代わりに『お弁当を買いなさい』って500円を渡しているんですが、菓子パンを買っているんですよ。椎名先生、夜の給食も出してください」って。

そこで、いろいろ調べてみると、とんでもないことがわかりました。夕飯を菓子パンやファストフードで済ませている子どもがたくさんいたんです。このような状況で、未来の日本を担っていく子ども達の健康が心配になりました。またそれと同時に、旬の食材や和食に触れず、日本の食を守る人がいなくなってしまうんじゃないかとの不安も覚えました。

それで、学校以外の子ども達にも何か自分でできたら、と思って夜のお弁当“塾弁”を作ることを決心し、学習塾大手である日能研の社長に、思い切って直談判したんです。今では日能研の8教室を中心に、学童などへも毎日お弁当を届けています。1日でも早く、1人でも多く、菓子パンとファストフードをやめさせなきゃいけない。それが、この仕事を続ける原動力になっています。

お弁当の献立は「旬」と「和食」

FCNのお弁当の献立には、大きく2つのこだわりがあります。まずは、「旬のものを大事にする」。旬の食材は、栄養が通常の時季より凝縮されています。それに、栄養だけではありません。日本の四季を食べ物から感じられるって、すごく幸せなこと。体にもいいし、心も豊かになるんです。今は輸入品のおかげで、年中どの野菜も食べられますが、私はできるだけ国産、特に地のものを食材として使えるよう農家の方に直接お願いして仕入れています。

もうひとつは、「基本は和食」。和食は栄養バランスが非常にいいんです。ただ、子ども達が好きなのはやっぱり唐揚げなので(笑)、食べてもらうには工夫が必要です。学校栄養士時代から実践しているんですが、例えば子どもが苦手そうな青菜料理とか切り干し大根を入れるときは、その代わりに主菜を唐揚げにする。食べてみてもらいたいものと好きなものを組み合わせることで、毎日完食できるようにするんです。いきなり和食一辺倒にしてしまうと、「和食はもうイヤ!」ってなってしまいますからね。

お弁当に込めるもう一つのこだわり

実はお弁当のフタに、毎回メッセージを書いて貼っているんです。いくら旬の食材を入れても、なぜ入れたのかを伝えないとただ無意識に食べたり、食べてもらえなかったりするので。

それに、旬の食材は旬のときに集中して使うことになりますよね。何も伝えずにナスが毎回入っていれば「え~!またナス!?」と思われてしまいますが、「ナスは今が旬で…」と、なぜ今日はこういう献立にしたのかを伝えれば、苦手でも「チャレンジしてみようかな」と興味を持ってもらえるんです。魚でも、今しか食べられないこういうお魚だよ、こんな意味があるんだよ、ということを知るだけで、子ども達は関心を持って箸をつけてくれます。

それから、食材を使っている農家の話も子ども達に伝えたりします。「こういうところに農家があって、そこからきた野菜で作っているよ」って。東京23区内でも、少し郊外なら畑を見られる場所もあります。畑を見てごらん、今はこれが植わっているよ、今日とれたての○○だよ、とメッセージに書くだけで、ただ素通りしていた畑や、柿の木、庭にただ植わっていたキンカンにまで子ども達は気づくようになるんです。

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毎回手書きの献立とメッセージをお弁当のふたに貼っている。お弁当は手に収まるお茶碗サイズ。器を手に持って食べる習慣を身につけてほしいとの願いが込められている。

「メッセージ」が親子のコミュニケーションツールに

子ども達にはメッセージを家に持ち帰ってもらっていますが、これがご家庭で役に立っているようなんです。子ども達が「今日はこれ食べたんだよ」と保護者の方に報告することで、親子の会話、コミュニケーションが生まれるんだとか。「今日こんなの食べたんだね」とか「これ全部食べられたの?」とか、普段食の話なんて全然しなかったのに話すようになりました、って感想もいただきました。

あと、もう小学校を卒業してお弁当を注文しなくなった保護者の方から、メールをいただいたことがあります。「お弁当のメニューに困った時に、とっておいたメッセージを参考にさせてもらっています」って。こういう感想をいただくと、ああメッセージをつけておいてよかったな、って思います。

他にも「うちでは煮物なんて食べないのに、食べるんですね、うちの子」なんて、言われたこともあります。そんな子ども達からもらう感想は、だいたい「ちょーうまかった」とか(笑)。空のお弁当箱にメッセージがついて戻ってきたり、後から手紙で送ってくれたりもします。献立のリクエストはやっぱり「唐揚げ」なんですが(笑)、でも他のおかずもしっかり食べてほしいので、唐揚げは月1回くらいにしています(笑)。

子どもや保護者から届いた多くのメッセージ。

子どもや保護者から届いた多くのメッセージ。

お弁当とFCNのこれから

今お弁当を届けている日能研の8教室以外にも、菓子パンやファストフードを夕食にしているお子さんがまだまだいます。コンビニの袋をぶら下げて学童へ通うお子さんも大勢います。日本のライフスタイルが変わり、共働きも増えたので、かつてのように手料理を毎日作って家族で食卓を囲むというのは、現実的に難しくなっていくでしょう。

だからこそ、今までとは違った方法で、すべての子ども達が手作りの味を食べられる世の中にできたら、って。その第一歩として、FCNがもっと活動の場を広げて展開できるよう、今ちょっとずつ考えています。

私は学生の頃からベビシッターをしていて、忙しいお母さんたちをずっと見てきました。「お母さん、もうそこまで頑張らなくていいよ」って思うんです。たとえばご飯なら、料理が得意な人が子どもにお弁当を作り、会社を引退したお父さんがそれを配達する。そんなふうに、それぞれできる人が担い、足りないものを補い合える世の中になればいいなと思います。それが最終的な目標です。これをFCNだけで担うのは難しいので、もっとシンプルにご近所同士、地域で支えあえるようになればいいですね。

PROFILE

椎名伸江 さん

FCN株式会社代表

しいなのぶえ:農業で食を支えたいと考え、大学は農学部に入学。その後、野菜農家との出会いをきかっけに、旬の食材を多くの人に食べてもらいたいとの思いから大学を中退。短大に入学して栄養士、栄養教諭、フードスペシャリストの資格を取得する。07年~13年4月まで練馬区内の小学校に学校栄養士として勤務した後、13年11月に同社を設立。